#014 : バトルダメージの表現について
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市販の「バトルダメージ仕様エンドスカル」
“Battle Damaged”もしくは”Conbat version”という名で、汚し表現の入った仕様のバストが販売されています。
しかし、残念ながらあれらはただ単に「汚しのペイント」が施されているに他ならず、バトルダメージというにはお粗末です。中国の生産工場で働く女工さん達が、筆やエアブラシで「えいやっ!」と塗った形跡がはっきりわかります。現在、キャラクターものの玩具やフィギュアのほとんどは中国製です。現場の技術は年々上がっているように思います。ただ、設定画通りに着色していけばよいアニメキャラクターなどは問題ないのですが、エンドスケルトンのバトルダメージのような表現は熟練度を要します。流れ作業で処理できるほどのものではないと思います。ましてや、ライフサイズのバストともなると、その大きさ故に「ごまかし」がききません。手抜きや失敗が明らかにわかるのです。これは現場の技術云々ではなくメーカー側の姿勢が問題でしょう。ただ、数百体もの量産品ともなると、コスト面で致し方ないのも事実です。熟練工を育てたとしても生産効率が落ち、採算が合わないでしょう。何よりもまず、生産現場の女工さんたちは「ターミネーター」という作品を知らない。ましてや、この金属の頭蓋骨が一体何なのかも知らない。以前、上海近郊の玩具工場でメジャーリーガーのフィギュアを着色する工場を見学したことがあります。彼女達に「野球って知ってる?」と聞きましたがほとんどが首を横に振っていました。彼女達としては「この、帽子を被って棒を持った人はいったいなんなんだろう」という感じでしょう。そんな彼女達に、私たちマニアが納得できるような仕事ができるはずもないのです。誰も責められません。
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筆で塗られたと思われる汚し表現
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量産品ではこれが限界だと思います
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エアブラシを使用したと思われる箇所。ただし使用色は黒のみ
さて、T-STUDIOでは、今回のアニマトロニック・バスト ver.1.1を「TERMINATOR 1作目終盤のエンドスケルトン」をモチーフにして製作したことから、トレーラーの炎の中から立ち上がった状態をイメージして「焼け焦げ」の表現を入れてあります。当初、6層クロームメッキ処理で美しく輝く表面に塗装するのは気が引けました。最終的には、黒をごく薄めに希釈した塗料を全体に吹くので、6層クロームメッキの「美しい輝きと艶」は一切無くなってしまうのです。
ただ、1作目をモチーフとした以上は決断するしかありませんでした。スタンウインストン氏は焼け焦げ表現の参考に「バイクのマフラー」を観察したと言います。確かにそこにはオレンジ色・黄色・青色・紫色と、様々な色味が複合的に存在し、熱による金属表面への影響を端的に表しています。プロップの写真やこうした発言を参考に、エアブラシにてまずクリヤーイエローを、つぎにクリヤーオレンジを慎重に吹き付けました。オレンジも濃さの違う3種類のものを準備して吹きます(各社のバトルダメージ表現は残念ながらほとんどが黒1色で施されています。この黄色系の汚しを入れるだけでかなりリアルさが増しますので、ぜひお持ちのバストにクリヤー系塗料で汚してみてください)。
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アニマトロニック・バスト ver.1.1では、わざとらしくならないよう心がけて丁寧に汚しました
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在りし日のスタン・ウィンストン氏。汚しに関する記述も(「Stan Winston Effect」より)
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上の二枚の画像は「留之助商店」に展示されている1作目のプロップです。1作目の撮影当時、スタン・ウィンストンスタジオで施されたであろうダメージ表現に加え、実際に撮影中に受けた損傷や、1984年から今日に至るまでに経年劣化してしまった箇所など、これぞまさに「本物のバトルダメージ」といっていいでしょう。この雰囲気はそう簡単に真似できるものではありません。
![[1]T2プロップの汚し表現](http://t-800.jp/web/wp-content/uploads/2013/02/randa_012_09.jpg)
[1]T2プロップの汚し表現
[1]の写真のようなT2プロップの汚し表現などを考察した結果、私なりに掴んだ「スタンウインストンスタジオの汚しの特徴」を実践したのが[2]の作品です。詳細についてはこちらをご覧下さい。
研究と考察
関係者へのインタビュー