#001 : M1号社代表・西村祐次氏に聞く

M1号エンドスカルキットの構成部品

福島県にあるM1号社は、日本の特撮作品に登場するヒーローや怪獣を立体化する有数のメーカーである。特筆すべきは、30年~40年以上前に発売されていた子供向けのソフトビニール人形を、当時のテイストそのままに復刻させてマニアたちを喜ばせているという点である。代表の西村氏自身が、そうした古い子供用玩具のコレクターでもあることから「誰よりもマニアの心を理解している」といえよう。M1号の製品が多くのマニアから支持されてる所以である。今回、T-STUDIOが製作するAnimatronic Bustの素体として使用した「M1号社製 エンドスカルキット」に関してのインタビューに成功した。和製特撮作品・小道具だけでなく、ハリウッドのムービープロップにも造詣が深い氏の興味深い話をここに掲載する。

T-STUDIO
今回、西村さんのM1号社から発売されていたキットを使用して、「動くターミネーター」を作ったんです。
アニマトロニック・バストを動かしてみせる…
西村氏
これはすごいね。あれ?首の中央に走っている溝、こんなのオリジナルにあったかな?
T-STUDIO
1作目のプロップにはこの溝があるんです。なぜだか2作目以降にはみられないんですよ。
西村氏
細かいところまでよく研究してるね。
T-STUDIO
「動かす」だけではなく、「プロップに忠実に」というのが私の信念なのです。
西村氏
メッキの質感もいいし、これはマニアが喜ぶだろうね。
T-STUDIO
ありがとうございます。西村さんにそう言ってもらえて、こんなうれしいことはないですよ。さて本題なのですが、今や絶版で「伝説のキット」となってしまったM1号のエンドスカルキットについて、いろいろお話を聞かせて頂きたいと思います。
西村氏
なにぶん古い話なので記憶が定かではないけれど、できる限りお答えしましょう。
T-STUDIO
まず、このキットの開発の経緯を教えて下さい。
西村氏
開発に動き始めたのは1992年頃だったかな。発売までに約1年はかかったと思います。ロスのコレクターであるボブ・バーンズの家に遊びに行った時、エンドスカルをはじめとしてエンドスケルトン関連のパーツやレプリカがあって、直接手で触れることができたんです。この時に「なんとかこれを商品化したい」と思いました。その後、アメリカの知人から「レジン製のエンドスカルのレプリカが入手できる」と話があり、500ドルくらいで購入し、いろいろと研究をしました。また、アンダーグラウンドではありましたが「売ってもいいレプリカがある」という知人からの案内に、複数個購入し日本のイベントなどで販売したんです。ただ、やはり歪みやシリコン型の収縮・レジン成型の粗末さが目立ち、商品の原型にするには満足のいく物ではなかったんです。
T-STUDIO
あくまで「レプリカ」ですものね。
西村氏
そうなんです。日本国内での版権を許諾してもらってから、本格的に「原型となるべきもの」を捜したんです。再びアメリカに行った時に、ターミネーターの小道具展示があり、同時にそこでオークションも開催されていたんですよ。私はそこで2作目の「機械に挟まれて損傷した黒い手袋付きの手」を落札しました。その時に現場にいたのが、ジェームズ・キャメロンのオフィスに勤めるジェフという担当者でした。2作目の「ゲームセンターのシーンでT-1000にジョンの居場所を教える役」でも出演していたはずです。彼にエンドスカルのキットを日本で発売したいと相談したところ、スタン・ウインストンから質の良い原型を調達してくれるということで後日、サンタモニカにあるキャメロンのオフィスに原型を取りに訪ねました。オフィスの中を案内してもらい、原型(写真:01)を手に入れ、展示してあったエンドスケルトンの写真を撮らせてもらいました。
ジェームズキャメロンのオフィスで働くジェフ

ゲームセンターのシーンでT-1000にジョンの居場所を教える役で「Terminator 2」に出演

M1号エンドスカルソフビキット原型

(写真 01)

T-STUDIO
そこでキャメロン監督にも会ったのですか?
西村氏
彼は不在でした。ただ、キットのパッケージ用にキャメロン監督のコメントをもらえないかとお願いしてみたら「多分OK」との返答をもらえました。こうして原型を確保し、発売に向けて進んで行ったのです。
T-STUDIO
その原型にとても興味があります。詳しく教えて下さい。
西村氏
歪みもなく、1作目のエンドスカルの大きさやクオリティを保ってはいたのですが、やはり小道具ゆえに細部に甘さがあったんです。エッジ部分のシャープさに欠けていたり、粘土原型のハケ跡が残っていたり・・・。
T-STUDIO
製品の原型になるよう、細部に手を加えたわけですね。
西村氏
そうです。スタンからもらった原型を一度型取りし、全体的にシャープさを出しました。側頭部のメカ部品は、実際にプロップ製作時に使用した日本製プラモデルのパーツを調べ、同じ物を使用して新しく組みました。
T-STUDIO
全く新規に作り起こしたのであのシャープさが実現できたというわけですね。
西村氏
原型を担当した高橋清二君が頑張ってくれたんです。あと、付属の金属パーツも地元福島の精密機械工場に依頼して作ってもらったのですが、かなりコストが掛かりました。
T-STUDIO
スタンからの原型をリファインするにあたって、製作を担当された高橋氏には具体的にどのような指示をされたのでしょうか?
西村氏
個人的な直しやディテールアップは絶対にせず、「線の歪みの修正」と「機械的なエッジのシャープさを出す」ことのみを指示しました。あくまでプロップのレプリカですから、最大限スタンの原型を尊重したかったんです。スタンも「一番状態のいい型から抜いた」とのことでしたから。
M1号エンドスカルソフビキット原型

(写真 02)左が「西村氏のためにスタンが同一の型から抜いた、キットの第一原型」・右が「細部がリファインされた最終の製品原型」

T-STUDIO
これが手直しが入ったあとの最終的な原型ですね(写真01)。「素晴らしい」以外の言葉がみつかりません・・・。映画の小道具としてではなく、「実際にターミネーターが存在したら」と考えた場合、きっとこんなにシャープで美しいんでしょうね・・・。
西村氏
そうかもしれませんね。
T-STUDIO
ところで、実際に製品化された後、キットはキャメロン監督やスタン・ウインストン氏の手に渡ったのですか?
西村氏
ええ。キットと塗装済みの完成品を両名に送りました。二人ともかなりお喜びだったと聞き安心しました。
T-STUDIO
現在、国内外のメーカーからエンドスカルのクロームメッキされた完成品が出ていますが、西村さんの目からはどのように映りますか?
西村氏
うちのはキットであり、あれらは完成品ですよね。ですから商品の存在意義自体が異なるものだと思います。ですから、比較するべきではないんでしょうが、やはりあれらは「歪み」が気になりますよね。ただ、うちのキットは歪みがないものの、ソフトビニールの性質上、原型よりやや収縮してしまっている点が残念ではあります。あ、ちなみに、アイコンから出ていたエンドスカルの側頭部メカは、うちのキットを無断で複製して使っているんですよ。
T-STUDIO
最後にもう1点。西村さんの強いコダワリで開発されたこのキットを利用して、「動くターミネーター」を世界で初めて発表するわけですが、このAnimatronic Bustに対してコメントを頂戴できますか?
西村氏
クオリティの高さに驚いています。私の所有する眼球可動ギミック付きのプロップと同様、モーターの動作音もすごく味があるよね。これはマニアが喜ぶんじゃないの?
T-STUDIO
これ以上のお言葉はありません。本日は貴重なお話の数々、どうもありがとうございました。

※このインタビュー記事は、2011年10月〜2012年1月にかけての西村氏との往復書簡と電話インタビュー、2012年8月にM1号を訪問した際のお話を元に構成しています。