T2:OP Prop Replica Ⅱ
製作までの経緯
資料や写真を徹底検証して造り上げた「T2:OPプロップレプリカ」の発表時に作品解説でも少し触れましたが、より実物に近づけることを念頭に置いて製作したため、焼焦げや損傷表現は実物同様に「最小限」に留めました。汚したい衝動を「今回はレプリカなんだから・・・」と抑えていたのです。実際、発表後にたくさんの方から「OPレプリカのダメージ版はやらないのか?」とのご意見もございました。スタンウインストンスタジオのペイント技法の研究、焼焦げや損傷のリアリティ追究が一段落した今、やりたくてもやれなかったこの案件にようやく取り組める時が来たというわけです。
製作上の「決めごと」
OPプロップ製作時には、素材・質感から細かな部品の形状・取付け角度に至るまで「資料写真の徹底検証と再現」だけに拘って取り組みました。とにかく「限りなく実物に近いレプリカ」を作ることに集中していたのです。今回はその呪縛から解放され、自由にやれる喜びを噛みしめながらの作業でしたが、実際に取り組む前には次のような「決めごと」を掲げました。
- 単純な「OPプロップのダメージ版」はやらない
- 必要とあらばOPプロップのディテールやシルエットを大胆に崩す
- 成り行きや直感任せのペイント・カスタムは絶対やらない。全て意図を持った緻密な作業を心掛ける
- 「過去の作品をすべて捨てでもコイツだけは残したい」と自らが思える完成度を目指す
- 現時点の私の技術の全てをもって「エンドスケルトンの恐ろしさ・美しさ・神々しさ」をどこまで表現できるのかどうかを試す
というものです。これらを念頭に置いて、今回はいつも以上にたっぷりと時間を使い、そしてじっくりと仕上げました。
シルエットと各部仕様の決定に際して
1年に渡るOPプロップレプリカ製作の中で発生した余剰分のメッキ素体やストック部品を中心に、まずはOPプロップの基本形を組みました。そして、OPプロップの仕様で「私が気に入らない部分」を変更・修正・改修しています。大きな変更点は「頭蓋骨と眼球の取付角度」です。顎を引いて、目を上向きにすることでT2オープニングの“ ニラミ ”を再現し、エンドスケルトンの持つ「恐ろしさ」を強調しました。また動力パイプを実物のφ15.0からφ16.0へと変更したことで、作品に「重みと迫力」を持たせることへ大きく寄与しています。その他、質感を重視してユニバーサルジョイントを金属製の汎用品とし、口元のシリンダーもM1キット付属のステンレス製のものを採用しています。細かい部分では、眼球の発光輝度を落としてT2オープニングシーンのような「ぼんやり中央が光る」ような仕様にしています(写真ではわかりづらい部分で恐縮です)。レンズも、一旦クリアレッドのレジンパーツを準備した後、樹脂を染める顔料(グレー)を使って処理しています。また、OPプロップレプリカでは重要な部分だった「台座」ですが、今回はあくまで作品以外の要素と割り切ってブラックアウト化し、展示の際の質感を重視して結晶塗装を施しています。
ペイントに際しての注意点
過去、私のペイント訓練では「あるプロップの汚しをそののまま真似る」あるいは「それらしく見えるようにやや過剰な表現を用いる」といった傾向がありました。トレーニングの一環としては大切な過程ではありましたが、今回の作品に於いてはそれら傾向を一切排除し、「リアリティ」だけを追求しました。プロップによっては「インパクト重視・リアリティ度外視」の個体があり、これら“ それらしく見える個体 ”を参考にしてしまうととても危険です。クリアオレンジやクリアイエローといった色はそれらしく見せるには効果的でついつい多用しがちですが、今回は殆ど使っていません。
“モノトーン”の迫力と凄み
それらしく見える「オレンジやイエロー」を使用しなかったことや眼球レンズをスモーク仕様にしたことで、眼球消灯時のこの作品の色合いはほぼ「モノトーン」です。金属の鈍い輝きと、損傷表現のブラックだけのこの作品には「色」がないのです。このモノトーンによる「えも言われぬ凄み」は、私自身が製作中に「怖い・・・」と呟いてしまったほどです。また、台座を黒くしたことによってとても「重み」のある作品になりました(実際かなりの重量ではありますが)。恐ろしさ・美しさ・神々しさを追求したら、凄みと重みまで付いてきたという感じです。
最後に
今回の取り組みは「脳内で描いたイメージをそのまま再現できるか?」という訓練でもありました。その時の気分や調子に合わせて、またノリやセンスだけで行き当たりばったりな「成り行き任せの作品」はやっちゃいけない、と。脳内イメージを元にした緻密な計画立案と、丁寧で効率的な作業進行を心掛けた結果この作品は産まれたのです。初めに掲げた「決めごと」の4と5を踏まえて具体的な作品イメージを脳内で描き、1〜3などの詳細テーマに則して一心不乱に取り組む──。
今後私が作りたいものはいくつもありますが、今回の製作から得たもの・気付いたことはそれらを実現していく上でとても大切なコトなのかなと、存在感抜群のこの作品を眺めていてつくづく思いました。