2018年DORO☆OFF作品[解説編その4]
2018.11.02
[シリコンペイント?]
本題に行く前に……。シリコン、シリコンって普通に呼ばれてるし僕だってそう呼んでいるけれど、いつも内心は「本当は『シリコーン』なんだよな…」という葛藤がございます(siliconもsiliconeも存在する)。ですので口にしたりこうして文字にしたりする際にはいつも非常にモヤモヤしてます。通称として認知・一般化されているし何より言い易さで「シリコン」と呼んでますが本当は「シリコーン」なのです。
ついでに言わせてもらうと、この手の「一般化してしまった誤用」や「単なる注意不足による言い間違い」の類いは僕はとても気になって仕方が無いので以下いくつか挙げておきます(もし「うわ!俺(私)間違ってた!」という人は今からでも遅くはないのでこれを機に改めよう!)。カリフォルニアをカルフォルニアという人、ブルース・ウイリスをブルース・ウイルスという人、シミュレーションをシュミレーションという人、フィーチャーをフューチャーという人(←意味全然違います)。ちなみにシュワルツェネッガーでもシュワルツネッガーでもこれに関してはセーフ。音だけを拾えばどちらにも聞こえるので。あと、英語が日本語化したモノとかも僕の中ではセーフです。例えば音通りにいけば「モウリヴェイシュン」ですが「モチベーション」でもOK(僕は恥ずかしいのでこの単語は使わず「やる気」と言います。本来は「動機」という意味です)。「トウィラー」を「ツイッター」というのもまあ仕方が無いし、こうなるともはや「和製英語」の範疇だと思います(でも英語話者には通じないので注意して下さい。「ナイター」も「ホームページ」も通じませんよ。あとinstagramのアクセント位置とかも要注意)。過去の僕のコラムや本業のブログなんか読み返せば赤面モノの誤用満載だと思うので他人のこと言えないのでこの辺にしときます。
[シリコンペイント]
で、ペイントの工程のお話。そもそも論として「シリコンへの塗装はできない」という一般概念があります。シリコンは接着できないし塗料は乗らない。乗ってもスグ剥がれる、というのが普通の考え。では、ハリウッドの現場やラブドール工場などではどうやって色つけてるの?という疑問が沸きます。「シリコンに密着するのはシリコンだけ」なのです。つまり、硬化前の攪拌済みシリコンを専用顔料で着色しそれを塗るしか方法がないのです。くせ者です。人体塗装自体が実質初めて(厳密には中学の時にマックスファクトリーの鮎川まどかを塗ったきり)の僕が、それを初めてのシリコンペイントでやらねばならぬという現実…。
酒を飲まない榎本君は僕に問うたことがあります。「どうして酒を飲んで作業するのか?」と。答えはひとつ「迷いが無くなるから」です。かくして、海外のレクチャー動画をひと通り観た後、ストロング系チューハイをグビグビやりながら思い切ってぶっつけ本番でいきます(普段のエンドスケルトンは失敗してもシンナーで落とせますが、シリコンペイントは硬化してしまったらやり直し不可なのです)。自分の手を参考にしながら自分の手の複製を塗る、というのは一見お手軽ですが、なんせモチーフは白人男性です。僕自身を完全にトレースしてしまうと黄色人種になってしまうのでそれはもう慎重に慎重に…。
出来上がったのがコチラ。シリコンペイント処女作です。ドロオフ当日に作品をご覧になった皆様からは「ペイントが素晴らしい」とか「本物みたい」とお褒めのお言葉を頂戴しましたが、僕の本心としては満点からは少し遠いです。まだまだやり込めたし、もっとリアルに出来る余地があった。とにかく普段使うラッカーやエナメルと全く異なる粘度・ハンドリングゆえ、エアブラシの調整は難しかったし、失敗できない重圧から複数色を重ねることにとにかく怯えておりました(アルコールが足りなかったか?)。
一方でFH本体は気楽に塗れました。人体とは違って明確な答えがない分、ゴマカシが効く。最悪の場合もう一度軟質素材で作り直せば良い、という安心感もありました。上の写真の後にさらに何層も色を重ねて最終的に満足のいくペイントができましたが、それでもやはりまだまだやり込む余地があったことは否めません。
特に後悔しているのは、胸元の汗表現です。すこしやり過ぎました。自宅の照明下ではまずまずだったのですが、ドロオフ会場の照明下ではどうもやり過ぎ感が強く、「作り物っぽさ」が露見してしまったように思います。FH本体のツヤやヌメリは狙い通りだっただけにこの過剰な汗表現だけは今でも悔やまれるところです(本当は未来肌着にも汗染みつけて調和を図りたかった…)。とにかく今後も引き続きシリコンへのペイント、とりわけ人体表現を追求していこうと思っております。
また説明が前後しますが、解説その2で大きな反響を頂いたママ友製作の「未来肌着」もこの通りの完成度。担当のKちゃんは本当によくやってくれました。映画小道具を再現する際「こんなもんでいいや」とか「それっぽければいい」という妥協は許されず、その程度で良いのならば最初からやらないほうがマシ、と僕は常々思っています。ですので、こんな肌着ひとつ作るのにも再現すべきポイントや仕様が満載で、そのひとつひとつを潰していかねばならない地道な作業なのです。そんな僕の細かな指示・要望に応えつつ、洋裁の専門知識に裏付けられた的確なアレンジやアドバイスをくれる頼もしい味方のKちゃんです。
肌着の肩部分でちょうど隠れる部分に「胴体と腕の継ぎ目」が来ます。Kちゃんの技量を信頼しつつも、やはりこうやって当てがうまでは若干の不安もありました。レジンやポリパテ製とは違い、継ぎ目を消すことができないシリコンではここはなんとしてでも肌着で隠さねばならない部分。ゆえに、この見事な隠蔽具合にホッと胸を撫で下ろしたのは言うまでもありません。
前部中央が左右に開いているこの肌着、劇中画像からもわかる通りヒモで閉じる構造ですが、このヒモ1つとっても手芸用品店を数軒回って質感や太さが近いものを探し出しました(ヒモの購入&編み込みは上京前日の9月20日!)。
[展示ケース&台座]
DORO☆OFF名物「電飾タイム」の荘厳さについては過去3回の参加で身を以て感じてきました。会場の照明が落ちた瞬間、この作品を最も効果的に魅せるにはどのような表現方法が最適か。実はこの「作品本体ではなく台座の床面自体が発光する」というプランは、作品を想起した時点で決めておりました。上の画像左側の劇中画像のように、背面全体を発光させるプランも候補に考えました。しかしカメラを構える観客の皆様にとって逆光になるし、何より他の出展者さんたちに迷惑になるかもしれないという観点から即座にボツにした記憶があります。ケース内に光源を収め、天板に用いる乳半の光拡散特性を活かした「均一な面発光」ならば雰囲気の面で勝ると考えたし、逆光問題も緩和されるであろうという狙いもありました。他の出展者さんたちへの配慮に関しては調光ボリュームを用いることでクリアできると踏んで適切な光源部材を選定(写真右は展示当日の様子)。
構造に関する草案ができた後は、アクリル業者さんとの綿密な打ち合わせです。何せこのサイズゆえ、費用面はもとより反りや破損に対する耐久性や重量の問題が大きな焦点となりました。耐久性を求めれば重くなり、軽くしようとすれば強度が落ちるー。この難題に関しては「台座部分」と「ケース部分」を個別に考えることでクリアしています。具体的には、台座部分の白アクリルはさほど高さがないので耐久性重視で10ミリ厚を、被せる透明アクリル(ケース部分)は極力軽量化を念頭に5ミリ厚で設計・製作しています。ケースはその寸法(1800×600×450)ゆえ、業者は10ミリを推奨しましたが「輸送時の取扱いと固定方法・使用方法(上に物を乗せない、など)にさえ気をつければ5ミリでもいける」というアドバイスの元、5ミリを採用することに決定。もし耐久性重視で10ミリを採用しようにも重量が作品全体で80kgほどとなってしまい、展示テーブルの耐荷重の問題や会期中の不測の事故を考えるととても断行する気にはなれませんでした(運ぶのが辛い上にコストもかかりますし…)。
前回の解説でご紹介したように厳密な位置決めのもと木製ベースを製作したのは、「アクリルケースが届いてからメカニズムの配線や位置決めをしていては遅い」という理由からです。ケースが届いた瞬間に、木製ベースごと作品をケース内にそのまま移植するためです。届いて移植、でも「入らない」とか「穴位置が合わない」というのはこれ以上無い惨劇ですので、アクリル業者とのやりとりに使う寸法に関しては神経を遣いました(ケース到着は出発2日前の9月19日)。余分な説明が多い上の画像ですが、木製ベースの説明のための一枚です。
先の図面の通り、今回のアクリル加工品は次のものたち。1.浅い浴槽状の白アクリル台座、2.光源を透過する乳半製の天板2ピース、3.作品を保護する透明ケース、の4点。天板を中央で分割した2ピースとしたのは、木製台座ごと移植した作品を分解することなく合体させるためです(勘の良い方は、天板の切り欠きに支柱が通ることがおわかりかと思います)。これもやはり実際その場になるまで成否が不明の綱渡り作戦ですが、幸い脳内で描いた通りのフィッティングと仕上がり、強度を実現した際にはホッと安堵したものです。
ついでに申し上げますと、あらためて言うまでも無く今回の作品は「何もかもが規格外」なため、それゆえの苦労が多々ありました。まずケースと台座が送られてきたときの箱のデカさ。中身が180センチ級なのでそれが入った輸送箱は約2メートルです。そして受け取った私のオフィスから自宅へ運ぶ際の苦労(これは単に配送先を自宅にしなかった僕のミス)。また開梱するだけで1時間以上を要する膨大かつ厳重な緩衝材とその量。記録的な猛暑と叫ばれた今夏、これら作業を一人だけでやった僕は言うまでも無く連日の汗だくでございました。
[出発まで残り40時間の闘い]
ケイン部・FH部ともに色はうまく塗れた、呼吸機構も思い通りの動きを実現、ケースも間に合った…。しかしここで休むことは出来ません。なにしろ出発は明日。この段階で残すのは大まかに1.FHの尻尾ペイント、2.サーボへのワイヤー固定と調整、3.ケインの毛髪処理、4.両腕の接合と肌着による接合部隠蔽、5.未来肌着のヒモ選定&編み込み、6.マネキン人形の下半身の移植、7.下半身をシーツで隠蔽、の7項目。この7項目こそが作品の見栄えを大きく左右するポイントで、まったく妥協はできないし時間的に失敗も許されません。まさに天王山の闘いでありつつ背水の陣。捲土重来は無いのです。
ここから以下は皆様への工程紹介というよりは、自らが後年涙を流しながら読むための戦記的位置づけですので難解な表現と至らない解説表現に関しどうかご容赦下さい(メンタル編でもそのまま転載予定)。やや仰々しいですが偽らざる僕の本音と当時の心境です(twitterの文字数制限無しバージョンのつぶやき投稿と思って頂ければ幸い)。また写真がほとんどないので、補足として上記の通り僕のiPhoneメモのスクショを恥を忍んで公開しますので想像の一助として下さい。
<9月20日 AM0:30頃> (機構調整をしながら思う)東京へ出発まで36時間。作品完成度は80%程度か。でも残りの20%を怠るもしくは不調に終われば展示自体が不可能になる。その意味では完成度80%という表現は不的確。ここまで協力してくれた妻や娘、ここ何日か本業を任せっぱなしだった榎本君のため、なんとか間に合わせてくれたアクリル業者さんのため、何よりもここまで費やした苦労に報いるため、残り36時間を全力で闘おう。ここまでの苦難を思い出せ。そして、残りの工程はすべて「単純作業」だけだ。量は多いけれど、ひとつずつ丁寧に確実に進めれば必ずゴールが来る。これまでのような不安や迷いは無いのだから、自らを律して確実に進めよう…。
↑尾の先端がピクピクと動くギミックも実は考案済みで、ケインへの固定とサーボへのワイヤリングさえ頑張ればもうひと味付け加えられたのです。うまくいく確証もなかったし、何より蛇足になるのが恐かった
<同AM1:20頃> 尾の仕上げペイントにかかろうか否か。その前に、尾の先端だけでもピクピク動くようもう1機構追加するか否かしばし考える。いや、ここで試行錯誤しつつ機構を新造するのはリスキーだ。しかもまだやらねばならぬ仕上げ工程は山ほどある。よし、尾の可動はやはり諦めてペイントにかかろう。しかしやり始めたら確実に2時間は要する。しかし意識が朦朧としてきた。昼間に行ったアクリルケースの移動や開梱で体力を使いすぎたようだ。(休憩がてら、リビングで洗濯物を畳む妻のもとへ)何もしていないのにハァハァと息づかいの荒い僕に妻は言った。「朝までやるつもりなんだろうけど、まず寝たら?やってから寝ても、寝てからやっても同じこと。それなら寝てリフレッシュして、朝からスッキリ全力でやったほうが良いよ」。やり残した事が多いまま寝るのは勇気がいるが、妻の見解ももっともだ。よし思い切って寝よう。布団に入った僕は、上画像のような工程をメモに整理し、眠りについた。
<同AM06:30> 起床。まだ寝ていたいがそうはいかない。ぼけた頭で夕べのメモを一読。やるべきことが整然と記されている。ああ、これを順番にやっていけばいいのね、はいはい……と徐々に頭が冴えてきた。よし、ではまずは尾のペイントから着手だ!
<同AM09:20> 榎本君から下画像のLINEが入っていたことに気付く。身内の一大事だ。幸い僕は妻の助言により体調万全。よし、夕方時間をみつけて事務所へ行って発送作業だ。タイトなスケジュールだがなんてことはない。神様が与えてくれた試練、絶対に乗り越えよう(尾のペイントをしながら思う)。
<同AM010:00> FH睾丸を動かすためのワイヤーをサーボホーンに固定。自転車のブレーキと同じで、張りすぎず緩すぎずの位置決めを慎重に行い固定。また、永年の動作に耐えうるようカシメも入念に、確実に…。作品の出来を大きく左右するこの最終工程が問題なく完結し安堵。何日も前からモヤモヤと気になっていた工程だったので…。妻に「ヒモとシーツの買い出しは11:30出発で!」と告げる。
<同AM10:20> 台座内部に電飾光源を固定し、光が漏れる部分に遮光シートを貼る。会場での電飾ON/OFFと、呼吸機構2系統のON/OFFをそれぞれ独立制御できるようにスイッチ付き電源タップを配線・固定。
<同AM11:00> 搬出口となる自宅1階南側の部屋へ作品を移動するため、ピアノや家具類を養生シートで保護。次いで、ドロオフ展示会場と同規格の1800×600寸法テーブルを配置。その上に、電飾加工を済ませた台座を乗せる(重い)。妻の手を借り、木製ベースごと作品を北側の部屋から移動。そのままアクリル台座内部にそっと配置…。木製ベース底面に開けた8箇所の穴と、アクリル台座の穴位置を合わせてボルトで固定…。よかった、想定通りの固定位置。乳半天板二枚を作品の両サイドからスライドさせて配置。部屋の照明OFF!電飾ON!機構スイッチON!「う、美しい…。そしていい呼吸の動き…」妻と手を取り合う。
<同AM11:30> 名古屋最大の手芸用品総合百貨店「大塚屋」に向かう。車内で僕「あそこなら何でも揃う。品数多いから選び放題」。大塚屋に初めて行く妻「名古屋で暮らし初めて10年以上になるけど、ようやく名古屋の主婦間でお馴染みのアノ大塚屋に行けるのね、最初は『大塚屋…てなんや?』て思ってたけど」と余裕のトーク。「これで今日お休みとかなら笑うな。定休日は確か火曜日だったような。まさか今日(木曜日)ってことはあるまい…」。ガーン、巨大な建屋の前で二人愕然、「木曜定休日!」。「西区のイオンに行こう。あそこの手芸用品屋さん、小さいけど以前何気なく下見してヒモの目星は付けてある。シーツはわかんないけど」と妻。結局、その店舗でヒモもシーツもゲット。少ないチョイスの中から、及第点と思しき品を迷わず購入。そこでついでに二人で摂ったランチ、残る工程の作業イメージをしながらだったのでまったく味を覚えていない。
<同PM01:30> 近所のホームセンターで最後の買い出し。ケインの頭髪は当初植毛でとも考えたが、労力と時間を考えてカツラ作戦に変更し、それ用のウィッグも購入済み。汗による濡れ感を出すために整髪ジェルとワックスを購入。坊主頭の僕がこの2点をレジに差し出す滑稽さったらないね。
<同PM02:45> 娘が学校から帰宅。今まで北側の部屋にあった作品が南側の部屋へ移動し、なおかつピアノ類がシートで覆われている光景にやや困惑している様子。この時点で作品の頭部はハゲのままで両腕も付いていなかったため作品自体は今まで見慣れた感じのまま。「お父さん出発は明日だよね?間に合う?」というひと言。「うん、大丈夫」と平静を装いつつも内心はドキドキ。確かに、出発前日にしては絶望的な未完成具合。大丈夫、まだ24時間あるさ…。
…次回、「その5」にて感動のフィナーレ(予定)
その④キタ━(゚∀゚)━!
まず、言葉の誤用は実は僕もめっちゃ気になる人なんで。
すげぇ共感します。
「風の噂」とか(もともとは「風の便り」。そもそも「噂」という言葉を文学的に比喩した言葉なのに・・・今やテレビでも平気で使われる多数派になってるのが納得できん)、飲食店でお客さん側が「おあいそ!」って言うこととか(本来はお店側の人間が言う言葉)、手紙の最後とかに「お体ご自愛ください」って書くのとか(「ご自愛ください」って「御自身のお体を大切になさって下さい」って意味だから頭に「お体」を付ける必要なし)ね!
大塚屋さんがまさかの定休日だったのは残念だったけど、きちんと予備案を用意している辺り、奥様(*^ー゚)b グッジョブ!!
綱渡り感が半端ない解説文もいよいよクライマックス!?
引き続き、楽しみであります(*`・ω・)ゞ