2018年DORO☆OFF作品[解説編その2]
2018.10.13
[この体勢を選んだ理由と未来枕]
1作目劇中での昏睡ケインは、「アッシュらに加療を受ける場面」と「X線でFHを検証する場面」で体勢が異なります。前者は肩甲骨下に未来枕が置かれ「気道確保」の体勢がとられているのに対し、後者は未来枕が頭の下に配置されています。僕は前者の「完っ全に顔面覆われてるやん!」的悲壮感・絶望感が好きで、後者の「ハイ、顔にFH乗っかってるだけです状態」からは心打たれるものが全くありません。ですので、当初から前者の姿勢しか頭に無かったのですが、これを再現するにはまず「正確な大きさ・角度の未来枕再現」が必須となるわけで、ゆえに例によって作品本体の付属物に過ぎぬこの未来枕の検証と再現に取り掛かりました。
[エンドピロー]
普段エンドスケルトンをやっていて、工房内で榎本君とは「エンドフットが云々」「エンドチェストが云々」と、パーツにすべて「エンド~」と銘打つのがT-STUDIOの常で、今回のケインを支える未来枕も実は知らぬうちに自然と「エンドピロー」と呼んでいる自分が居りました。果たしてこのエンドピロー、先述のようにシーンやスチールによって使い方も形状も違っていて、僕の見立てで3種類あることを確認しています。今回はあれこれ悩んでいる暇も無いのであるスチール(左)の個体の仕様で再現することに決め、まずは段ボールで仮原型を製作(右)。
段ボール製の仮原型がデカすぎることに気付かぬまま、それを元に石膏に置き換えたピローを毎日少しずつ、約1週間かけて製作。石膏に拘る理由は何もないのに(たぶん質感が近いんじゃ無いかという判断と、ドッシリ感がほしかった)、何故か頑なに石膏で作ろうとしていたあの頃の自分に「That’s too bad」と言ってやりたい(妻からも「これ大きすぎるよ絶対」と指摘を受けていたにも関わらず)。後学のために書き記しておきますが、段ボール製の仮原型表面に石膏を塗り重ねていき、硬化後に裏側から段ボール層を剥がし取り、そして裏側からもう一度石膏を何層か塗って固めています。で、表面を丁寧に水研していくと…まるで石材職人かのごとく美しき石膏オブジェが完成します(不意に触るとエッジで指が切れるほどです)。美しいのだけどデカすぎてボツにせざるを得ない刹那ったらないですよほんと。しかも結果的のこの1週間のロスが後々大きく影響してくるのであります。
苦労して作った石膏ピローがオーバーサイズだったことに気付き、でもなんとかそれを活かそうと悪あがきしましたが、苦悩の末に僕は腹を括ります。「最適な寸法はもう分かってるんだから、それの型紙作ってプラバン箱組みでよくね?」と。この思い切った方向転換は奏功し、たったの1時間で完璧なエンドピローの完成をみたのです。ちなみに1時間で作ったこのピローはこの後に続く「ケイン部粘土原型製作工程」でもビクともせず持ち堪えてくれたし、最終的にラバーペイントを施して実際のDORO☆OFF展示まで生き残りました。嗚呼、馬鹿デカい石膏の塊と闘ったあの1週間はなんだったのだろう…
[地道な粘土作業]
エンドピローが完成し、それを用いていよいよケイン部の粘土原型に着手です。解説その1の最後でご紹介した頭部・ボディ+腕を実際にピローに載せて角度(姿勢)の調整を行います。この写真(左:7月12日)の時点で、腕の角度が間違っていたと判断し一旦肩から分断しています。そして、首と胴体を合体させ接合部を調整し、頭皮のクリンナップも済ませたところ(右:7月26日)。
で、分断した腕を再接合する段になって「なあ、この腕のクオリティひどいよな。たぶんこの作品、フェイスハガー⇒可動ギミックを見られたあと、絶対に視線は肩から腕の方に行くはず。ゆえに腕の出来って妥協できない重要なポイントではなかろうか…」と妻に相談。「そ、それって結局またアルジネート…」と溜息交じりに震え上がる妻。「頼む!完璧な型取りが出来る型枠作るからもう1回だけ!」と懇願する僕。暫く間を置いて「腕2本だからあと2回でしょ!」と覚悟を決めた様子の妻。スマン!妻よ!
そう、この辺り頃(8月9日)から「指先まで型取り〜粘土置換して、もしうまくいったら指先まで見せる作品、なんならそのまま両脚までやっちゃえよ」という悪魔の囁きが聞こえ始めます。潜在意識の中にこの発想が少なからずあったせいか、実際作業に使っているテーブルなどはDORO☆OFFの2卓分ピッタリの寸法(1800mm×600mm)で高耐荷重(50kg)のモノを何気なく準備しちゃったりもしてますし…。僕はこの類いの悪魔の囁き(神様のお導きともいう)に決して購わないことにしています。はい、実際↑の写真からもおわかりのように完全に指先までの型枠作っちゃってます。
こんな美しく指先まで抜けてくれたら、もう迷いは無し。2卓分フルに使った作品にすることに決めました。そして相変わらずここでまず妻と会議。「おい妻よ、両脚までやることに決めた。いずれアルジネートで両脚もやってもらう。でもそれは上半身全てがうまくいき、なおかつアニマトロニック可動機構がすべて整うことが条件。間に合わなければ両脚の型取りは諦めてシーツをかけてやり過ごす。いずれにせよ、今年のDORO☆OFF展示は180センチ幅の巨大作品でいく」と静かに宣言(8月11日)。
おおまかに腕の接合を済ませた状態。言い忘れておりましたが、ここに至るまでの粘土造型の殆どの工程はほぼ全て妻が担当しました。高校時代は美術部、大学時代は文化財学科にて大仏の復元作業などを経てはいるものの、粘土作業は「単純にやってみたい。あのプロの作家さんが使う例の道具類を使ってみたい」という全くの初心者で、僕が買い与えた片桐裕司さんの本を参考に見よう見まねでやってのけたのです。いつしか「スポンジを各種買ってこい」だの「表面をならすためにエタノール、あと指サック!」という具合に僕は買い出し班に。実際に深夜の粘土作業中、僕はというと傍らで粘土の削りカスを掃除したり飲み物を用意したり、頑張れ頑張れの声出し部隊に成り下がっておりました。
胴体と腕を繋ぐ肩部分は、僕の実際の部位を参考に妻が新規造型。つまり僕は上半身裸でお掃除や応援をしていたわけです。真夏だからこそ成し得た奇跡とも言えます(8月12日)。
肩部分などの処理がほぼ整い、石膏型をとる直前(8月18日)。この後、後頭部の再処理や細部に肌テクスチャを入れていよいよケイン部・粘土原型の完成となります(全景の写真を撮っていないことが悔やまれる)。
アルジネート型取りの際の教訓を活かし、胴体と腕は別で型を取ることにしました。未来肌着(後述)で隠れる部分をカットラインとして定め、覚悟を決めて刃をいれます(粘土の塊を美しく切るにはパン切り包丁が最適と判明)。
胴体は前後2分割型とするため、後ろ側半分を粘土で埋めたところ(8月19日)。普段からエンドスケルトン等でやり慣れているとは言え、さすがにこのサイズだと作業量も使う粘土の量もケタ違いです。いつもの保育粘土はこの場合不向きなため、我が家では安価な上こねずにすぐ使える柔らかな「水粘土」を採用しました。乾燥したらボロボロに崩れるので時間勝負であることと、再利用は出来ない「完全使い捨て」である点を念のため明記しておきます。
さて、いよいよこれに石膏をかけて型をつくりシリコン置換!…にいく前に、水面下で同時進行していた「未来肌着」について以下少し語ってひとまず締めます。
[未来肌着]
見る人がみたらその再現性に狂喜乱舞、でも殆どの人には伝わらないコダワリの「未来肌着」です。完全ワンオフです。製作してくれたのは今年からT-STUDIOのサポートスタッフとして参画してくれているファブリック担当のKちゃん。彼女は僕の娘のお友達のお母さん、つまり妻のママ友なのですが、ターミネーターのある衣装の再現(スケールもので、後日発表予定作品)で協力してもらった実績があり、今回の未来肌着も迷わず彼女に依頼。1979年のAlien製作時の美術担当がデザインしたであろうこの謎の未来肌着に関し、劇中キャプチャやスチールを参考に綿密な打ち合わせを経て「ほぼ完璧なモノ」をKちゃんは作ってくれました。それもこれも紳士用介護肌着のカタログや参考入手したジジ…お爺さん用肌着を手に、時には娘の授業参観の合間や放課後の校門付近で、時には同じ習い事の保護者控えブースなどで極めて不審なやりとりを敢行した結果です。子の学校行事に参加したことがある諸兄は想像に難くないでしょうが、自分の妻が居ないところで他のお母さんと親密に何かをやりとりしている様子はある意味いかがわしくもあり、そして誤解を招いても仕方が無い光景そのもの。しかし実際はそんな想像や誤解を遙かに超越した変態的やりとりをしてたんです。
下の画像は、Kちゃんとの世にも奇妙なLINEのやり取り(一部抜粋)と、彼女自身が最終的に導き出した最終案図面の内容です。ターミネーターの服やら、こんなわけのわからん未来肌着の依頼もキチンと仕事として取り組んでくれるKちゃんには心から感謝、そして彼女のテクニックには拍手と敬服、です。
どうでしょうか、この一連の流れ。子供達が学校で勉学に励む一方で、親たちはこんなことをやってるんですよ。しかも真剣に…。実際の仕上がり具合については、次の解説その3で登場しますのでどうかご辛抱を。
解説その3へつづく…
壮大なサプライズ計画作品。
実物を目の当たりにしたからこその読み応え。
ワクワクしかありませんっすわ!
巣で親鳥を待つ雛鳥のような気分(笑)
次!もっと!