2018年DORO☆OFF作品[解説編その1]
2018.10.12
先ごろ開催されたDORO☆OFF VIIIに展示したアニマトロニック・フェイスハガー作品「THE MASKED GUY」の製作工程に関して長々と綴ります。普段好き勝手語っているつもりのこのコラムですが、やはり心のどこかで読み手への配慮、つまり明快な文章と写真、ある程度の起承転結を考慮してきました。しかし、今回に関しては読み物として楽しんでもらえるかどうかは正直自信は無いし、延々読まされた挙げ句「で?」と突っ込まれてしまう可能性も大きいです。推敲、加筆修正しているとおそらく泥沼にはまるので、以下一気に書き上げていきます。
[作品の起草経緯]
そもそもはDORO☆OFF 展示作品としてではなく、パートナー榎本君が昨年twitter上で提起した「名古屋でのエイリアン展示会」に合わせて何か作ってみるかという所がスタートでした。諸々の事情で開催は叶わなかった当該イベントは、2018年5月~6月頃を目指していたと記憶しています。しかしながらエイリアン、1作目は何度も観たけれど2作目なんかは榎本君に促されてやっと近年になって観たという実情があり、屈強なエイリアンフリーク・モデラーの方々にすれば「てめえにエイリアンを作ったり語ったりする資格はねえ」と言われても仕方が無いような身分で、さて何を作ろうか…と暫く苦悩しました。
答えを導き出すのにさほど時間はかかりませんでした。僕にとって元々エイリアンは1作目(1979年作品)をTV放送(結構カットシーンあったはず)を数度観て以降、1991年頃にLDを購入して観まくる(特に本編の前半)程の気に入りの作品であったことと、小学4年の頃ホビージャパンの読者作例で「生牡蠣などの魚介類を使用したフェイスハガー」を観た際の衝撃から「いつかワシも幼体エイリアン作ったる!」という欲望が長年僕の心に根付いていたため、自ずと製作対象は[フェイスハガー]と[チェストバスター]に絞られたわけです。
チェストバスターに関しては数年前のワンフェスで販売したツクダキットの改造作例をやったのですが、ケイン由来の鮮血や体液表現に納得がいっていなかったことから「もう一回、あれをやり直すか」という衝動にもかられました。でも、次のチェストバスターは必ずアニマトロニクスで動かしたいという願望もあったことから、時間的制約を鑑み断念。ならばフェイスハガーだな、という単純な思考です。
1作目「ALIEN」、2作目「ALIENS」を通じてフェイスハガーは重要な役割を果たします。そもそもアイツが事の発端なんですから当然。2作の中で色々なシーン・色々な動きがあり「やってみたい、再現したい」という衝動に駆られるシーンが4つあります。(1)1作目でケインに張り付いて昏睡状態となる場面、(2)ケインから剥がれてアッシュにいじくられる場面、(3)2作目で検体として保存されているstatis内の個体、(4)同、ビショップが解剖するシーンの個体、の4つ。
先述の「名古屋展示会」には(4)で挑もうと決めて、解剖シーンの検証、内蔵の再現法など何日かかけて少しずつ進めていきました。ただこのシーンのこの個体を再現するだけでは面白味に欠けるので「あるアレンジ」を加えるための準備も整えつつ…。結局、実製作に入る前に「名古屋展示会」が開催されない様相を感じ取った僕は、ターゲットを(1)に切替え、2018年9月の「DORO☆OFF VIII」での発表を目指すことになります(ちなみに、(4)の解剖シーン再現の準備はほぼ整っているので、さあやれと言われれば今すぐにでも取り掛かれます。世界中にはこのシーンを再現したと思しき「似て非なる作例」が散見されますが、僕ならばその決定版をやりますよ。どなたかからのご依頼お待ちしてマス)。
[検証と作品概要の決定]
で、今年4月頃だったか、エイリアン1作目の高画質版を入手して件のシーンを何度も何度も観ました(多分このシーンに限って言えば見識面でも資料面でも世界一の自負あります)。作品の内容は、1.ケインの呼吸の動きを再現、2.フェイスハガー(以下FH)の睾丸部分の呼吸の動きを再現、3.FHの指の動き(8本とも)再現、4.FHの尻尾の動き再現、5.ケイン部は上半身のみとし、DORO☆OFFの卓1スペース分(900mm×600mm)に作品を収める、6.ケインを支える未来枕の再現、7.ケインの来ている未来肌着の再現。これら7点を作品の概要と決めました。インパクト面でも発想面でもこんなのやった人はいないし、これからも出てくるワケがない。てゆうかそんな変態作品めっちゃ見てみたい!といういつもの悪い癖です。
加えて、「よし今回の作品、DORO☆OFF当日まで榎本君には内緒にしておこう。当日いきなり見せて彼奴をビックリさせよう」という訳の分からぬ決定を下します(そしてそれが後々僕の首を絞めることになります)。この時点で、製作は自宅でやることに決定しました。今や造型を生業の1つとしてやっている僕は専用の工房を持ち、24時間自由に材料や工具を使え、騒音や臭気に気を遣うこともありません。しかし、そもそも普通はアフター5や休日を利用し、奥方含む家人に文句を言われながら闘っていることを知っています。そう、一般モデラーさんと同じ土俵でモノ造りするのも趣があるな、という変な思考があったのも事実。とにかくこの決定を機に、僕は20時過ぎには家に帰る毎日が始まったのです。
[コダワリと妥協]
FHは厳密に言えば1作目と2作目で意匠が全く異なります。2作目のメイキング本で、SFXを担当したスタンウインストンスタジオのスタン御大は「1作目を踏襲しつつも、2作目ではより有機的なデザインにした」と語っていることからも自明ですが、全くといっていいほど造り込みが異なります。しかし、クリーチャー原型を1からやっている時間はないし、何よりも手元には2作目仕様のソフビキットがある。僕にしては一大決心ですが「そんなの誰もわかりゃしない。わかるのは榎本君とかnaoさんとかひろくま君ぐらいだよ」と自らに言い聞かせて「2作目FHで1作目のシーン再現や!」という超妥協案が採択されたのです。この時点では、随分気楽なもんです。T2意匠のエンドスケルトンを堂々とT1ライセンスで販売するメーカーの鼻ホジ感というか、精神的にはとても穏やかだったのです、この時点では…。
[ケイン部(人体部)の造型]
FH本体はキットを流用するとして、さてケイン部をどうするか?等身大の人体原型など、技術的にも時間的にも無理なので「よし、オイラの体を型取りすっか。ケイン役のジョン・ハートは僕とほぼ同じ身長だし」という単純明快な発想で型取りに挑戦です。ハリウッドの現場ではいまだに採用されている型取り方法にアルジネート(歯科用印象材)を用いたやり方があります。シリコンゴムと違って、1回しかキャスティング(型抜き)できないという難点がありますが、比較的安価に、そして短時間で型ができるということで採用決定。ただし、自分で自分を型取りできないので、作業は榎本君…には内緒なので自宅で妻に協力してもらいます。「面白そう。でも、事前にキチンと段取りをレクチャーしてちょうだいね」と妻。超前向き姿勢で助かりました。ここで拒否されていたら出港直後に暗礁に乗り上げるところです。
[失敗は成功のマザー]
1回目、一気に顔から胴体・両腕までを型取りしようと欲張り見事に失敗。まずかなりの量のアルジネートを攪拌する時点で落とし穴がありました(攪拌しきれずダマが残った)。水を加えて数分後に硬化が始まるこの材料は、水温調整と短時間の攪拌が肝なのです。また、固まったアルジネート層を補強する石膏テープ(プラスターバンテージ)も同じく時間勝負。何もかもが初めてにも関わらず、猪突猛進でトライするも玉砕しました。
で、2回目は綿密な家族会議の結果「頭」と「胴+腕」を個別でやろうと決定。「氷を用いて水温を下げ、硬化時間を稼ぐ」「ペイントミキサーと電動ドリルを用いて確実な攪拌」という基本を大切にし、まず頭部からいきます。結論から言うと「技術的には確実に進歩した。しかし、石膏補強が甘かったため粘土に置き換える段階で盛大に歪んでしまった、はい失敗!」。
3度目の挑戦で見事な頭部原型ができました。見る人が見ればわかるんですが、妻の施す石膏補強はわずか3日でほぼプロ級の腕前に昇華していました。「プラスタバンディッジ専門でハリウッドでバイトできるな」などと嘯きつつ、「たぶん私いま地域ナンバーワンのアルジネート使いだわ」と本人からまんざらでもない発言まで飛び出し、とりあえず1つ目の壁を乗り越えたのです。
胴体と腕は一気にまとめて型取り〜粘土置換をしました。やはりあちこちに無理があり、歪みや表面の荒れが目立ちます。しかし、もう一度やり直すために材料を無駄に出来なかったことと、何よりこの時点で妻が疲弊しきっていたため「あとは粘土細工でリカバリーや!」という大号令によりこれをブラッシュアップしていくことに決定。そもそもこの時点では「上半身までの作品」で、しかも「服着せるから表面は気にしなくて良い」と考えていたため、表面の荒れ修正は最小限で済むだろうし手首から先も無くてOK、だったのです。
解説その2へ続く…
マコっちゃん!先般のドロオフ、お疲れ様でした!
最高にブッ飛んだ変態作品、ありがとうございました(笑)。
眼福とはまさにあの事!
最後に搬出のお手伝いもできて嬉しかった!
そして今回のこのコラム、
最高に面白い!
何より奥様が素晴らしい!
皆さんもそう思いますよねぇ~・・・?
早く続きが読みたいなぁ~(笑)