依頼者との共闘作品
2017.10.17
僕の妻は高校時代、美術部のキャプテン(文化部の場合は「部長」か?)として主に油彩を嗜んでいたとのこと。一方、僕はと言えば我流イラスト(主にクラスメイトや先生の似顔絵)を書きまくっていた少年時代。そんな二人が出会った1998年の初夏の頃(僕21歳・彼女18歳)、互いの画力を賛美しながらも「描き方が根本的に違う」ことに気がつきました。鉛筆でたくさんの線を薄く引いて(下書きして)から本命の線を決めるという妻に対し、ボールペンやマジックでいきなり本線を描く僕。前者は「描きながらイメージを構築し、形にしていく」という方法で、後者は「脳内でイメージした全体図を目の前の紙に落とし込む」方法。「なんでそんなスラスラ描けるの?」という彼女の問いに「頭ん中にこの絵ができあがってるから」と返した気がします。二次元と三次元の違いこそあれ、エンドスケルトン製作もこれまで後者の手法を採って参りました。イメージしたものをイメージ通りに…。
しかし今回ドロオフに展示した作品(依頼案件)は異例中の異例ともいえる「製作前のラフスケッチ(下書き)」が存在します。
それぞれの道を代表する作家さん達の作品をコレクションしている今回の依頼者K氏。「エンドスケルトンを依頼するならT-STUDIO」という具合のご指名にプレッシャーを感じつつも、氏がイメージしていらっしゃった「ちぎれた首から配線が出ている感じ」という言葉をヒントに、このスケッチ(さすがにフリーハンドでスラスラではないですが)を描きました。以下に、これを描く直前(打ち合わせ段階)の私のメールの一部をそのまま引用します。
“頸椎はアニマトロニックバストのようなフルではなく、3~4段がいいと思います。下から配線類を出す場合、五段あると作品全体が縦長になりすぎて存在感よりも間延び感が先立ってしまうように思います。また、添付01のようなWF仕様の場合、ご指摘の通りワイヤーの着地点に悩んでしまいます。ですので、M1キットの3段はそのままで、4段目をT-STUDIO謹製パーツで補完します。その際3段目と4段目を少し離して、ワイヤー類が覗くようにすると雰囲気が出ると思います。ワイヤ類は、T3で描写があるのでそれを参考にします”
“首”+“配線”というワードを投げ掛けられた時点で僕の頭の中にはこのスケッチが浮かんでいて、スケッチを描いた時点で最終の仕上がりまでのイメージがおおよそ固まりました。
普段はほとんど作業中の画像を残さない(ゆえに榎本君によく怒られる)僕ですが、今回はK氏の意向を確認するために「進捗報告用」の画像が比較的多く存在します(これはたぶん木製台座に関する記録)。「T-STUDIOさんにお任せ」「あの時のあの作品と同じものを私にも」という依頼内容が多いのですが、今回のような「自分の理想とするエンドスケルトンをT-STUDIOさんに」という流れはとても新鮮で、普段は「プロップレプリカ」ばかり連呼している僕にとってこうした創作系要素が多い作業は新たな発見ばかりで実に楽しかったのであります。
これは木製台座へのペイント(マットブラック+結晶塗装)と頸椎の損壊具合(表情付け)に関する報告用記録。損傷・汚しペイントをまだほとんど施していない状態。後頭部シリンダーもまだありません。
損傷した側の眼球のみ上に向かせたかったのでその旨を相談する為に一枚。爪楊枝を用いて仮止めしてありますが、K氏は「こういう爪楊枝が刺さった前衛的作品になるのか」と本気で思っていたそう。んなわけなかろうK氏!!(笑)。
今回の作品のキモである内部配線類の報告用。T3にて、T-Xに足蹴にされて首が取れたT-850のシーンで配線の描写がありますが、一部それを参考にしています。本体と同じく、最終的にはこの配線類にも丁寧に汚しを入れてあります。
顎の開き具合に関する3案。ここは僕の好みではなくK氏の好みを伺って決めました。僕の好みでいくならば「顎は外れて歪み、片方のシリンダーだけでぶら下がっている状態」かな、今思えば。でもそれはあまりにも刺激が強すぎて、ドロオフでの展示には向かなかったでしょう。
向かって右側の眼は「不規則な明滅」をさせる榎本謹製基板により光ります。「そこまでのダメージがあるってことは、その根拠となるダメージが眼のまわりにあって然るべき」というストーリーにより、連日ダメージ具合を追加していきました(これは眼球を黒くしすぎたNG版。このあと再び地の銀鏡面を復活させています)。ちなみに、この画像のあたりからK氏には報告を入れず「ダメージ具合はハタナカさんに一任」とのK氏の宣言に基づき進めていきました。ドロオフ当日に本人をアッと言わせたい、依頼してヨカッタと思ってもらいたい、ただその一心で闘っていた気がします。
スケッチの段階では台座の裏に設置予定だった電飾制御類も、悪ふざけが過ぎてこんなシブいボックスを別体で製作。こういう「ベーターカプセル的色調」は日本男児にとっては永遠なのです。榎本君も「この作品の最大の魅せどころはこれや!」などと揶揄してきます。
「もし自分が作るならば」と断りを入れた上で榎本君は言いました。「オイラなら眼球レンズに欠けとヒビを入れるね」と。物言わず脳内で作業工程をイメージする僕。次の瞬間「それイタダキ!」と執刀にかかるも「眼球固定しちゃってるし、失敗は許されんなあ…」と一抹の不安が…。でもハイご覧の通り。成せば成るのだ。たっちゃんナイスアイディアありがとう。
DORO☆OFFのレポート記事やtwitterなどでお気づきの方もおられるかもしれませんが、今回の作品は頭の角度を変えられます。ドロオフでは敢えて初日と二日目で角度を真逆にして展示してみました。アニマトロニックバストは電動でしたが、こいつは手動の代わりに「うなずく(縦方向)角度」「イヤイヤをする(横方向)角度」のほかに「首をかしげる(斜め方向)角度」にも対応。斜めの角度が新鮮ですっかり気に入ってしまった僕は、この画像の角度がもはやデフォルトになってしまったのです(Kさん、動かす際はこの写真のマネをせず、当日ご説明差し上げた頭頂部鷲掴み作戦にてお願い致します)。
かくして完成をみた今回の作品。冒頭でご案内したスケッチとの比較を(台座に接地する位置や頸椎の数とその捻り具合、口の開きや配線の出し方など、作業を進めながら最適な答えを導いていった箇所をこうして見比べるとそのあたりが顕著で我ながらオモシロイいのです)。
ゴチャメカは決して描かない、それがT-STUDIO流。
共闘作品というタイトルにゾクゾクしてしまいました。
もし私に美的センスが少しでもあったら…自分の理想をT-STUDIOに作品にしてもらえたら…もうこれ以上の宝物はないでしょうね。
でも私の場合はそれどころじゃないだろうな。
多分、T-STUDIOの作品のうちどれと同じものを作ってもらうかだけで何日も悩むことになると思います(笑)