苦心の末

Terminator2 opening

これまで5年間の依頼案件の中で、件数としては最多を数えるのがこの「T2オープニングプロップレプリカ」、通称「OPプロップ」です(2009年、T4公開に合わせて東京で開催された「T展」に展示されていたあの個体が果たして実際にT2のオープニングで使用されたものなのか否か、その辺りの考証はこちらで詳しく解説しています)。この作品が多くのコレクターさんの心を掴むのはあの有名個体のレプリカだからではなく、エンドスケルトンの魅力が「ギュっ」と凝縮されているから、に他ならないと私は感じております。各部のマテリアル検証や既成部品の入手・採用、3Dモデリングによる再現なども相まって、今やT-STUDIO作品の代表格とも言える作品となっております。あくまでT展の個体を忠実に再現したver.1から始まって、あの凝縮感はそのままに顔や眼球の角度・スタンウインストンスタジオの手法に倣ったペイントを施したダメージ版ことver.2を自主的に製作してきましたが、その後は依頼案件として少しずつ細部の仕様やシルエットを変更したものに取り組んで参りました。

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東京在住のコレクターY氏。幾度となくこのコラムに登場し、これまでT-STUDIO作品を4点ほど納めさせて頂いております。私のT1エンドスケルトンへの情熱に共感して頂き、その4点すべてが「T1」絡みの作品です。昨年、4点目の納品時に氏のコレクションルームで「ハタナカさん、これでT1に関しては区切りが付きました。そこで、そろそろT2を1点お願いしたい。OPプロップレプリカです」と氏は私に語り、続けて「眼球を本編オープニング同様に『点』で発光したらカッコイイだろうな…。そんなことできたりしますか?」との。M1号キットの箱にもドーンと刷られているあのスカルの特徴的な発光はもちろん私も気付いてはいました。しかし、実際やってみようと考えたことがなかった為に可否を即答することが出来ず…。簡単そうで実は難しい議題であることは、これまで眼球発光に関してやり過ぎなくらい検証・考察してきた私にとって想像に難くなかったからです。

しかし、あの発光は確かにカッコイイ。というかエンドスケルトンの恐ろしさをさらに増幅させる効果があるように思います。さすが、長年に渡るターミネーターマニアです、「そう来るか」と感心してしまいました。

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「是非私の手で実現させてたい」という野望にも似た感覚。溜まっている依頼案件を進める一方で、合間を見てはあの「点発光」の再現を試しました。この画像は実験の初期段階で、実はこれ全く納得がいっていない状態のものです。点の大きさや輝度、レンズを通じて見える拡散ムラなどが全くダメだったのです。しかも、下顎のないスカル単体にこうして当てがってみても、いまいちイメージが沸かないという苦悩…。ある一時期からは、寝ても覚めてもこの難題の解決法を模索するようになっておりました。

Terminator2 opening

あらゆる方法を用いて一日中試行錯誤した日の私の作業机はこのような有様。この時点でもまだ結論が出ておりません(というか良いセンまでいっているが納得がいっていない)。

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ある程度まで納得のいく発光に成功したは良いけれど、それに確信が持てなかったのは「完成形のスカルにハマっていないから正解か否かがわからない」からです。Y氏からは「できたりしますかね?」という段階までの話であって、正式な依頼案件ではありません。しかし、できるかどうか、その答えは全ての部品を仕上げて組み付けてからしかハッキリしないのです。であれば、やるしかないのです。上の画像は、一念発起してスカルのスミ入れに着手した様子。

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一日半、本業そっちのけで集中して仕上げました。これまで何体も製作しているから勝手はわかっているものの、いかんせん作業量が多いこの作品。細部の組み付けの際のバランス調整も、経験から培われた勘がモノを言います。

Terminator2 opening

入り組んだホース類・シリンダーと頸椎とのバランス。顎の角度調整も、T2オープニングの炎のシーンと比較しつつの作業です。

Terminator2 opening

台座はT展個体(=J.キャメロン のオフィス展示個体)に倣ったメタル台座に準拠させています。画像では分かりづらいですが、本物と同様のヘアライン痕が再現されています。メタル調ペイントも含め、榎本の手による仕事です。経年による傷みを随所に施し「キレイすぎないように」という意図を込めています。T-STUDIOが作るモノは「作品」であって「製品」ではないのであります。

Terminator2 opening

スカル本体はM1号のソフビですが、この動力パイプやシリンダー、耳元からのオイルラインはリアルメタル製です。この作品の「重み」はこうした金属部品が大きく寄与しているのです。それっぽい部品を調達してきて当てがっただけの「ナンチャッテOPレプリカ」とは次元が違います。極力「本物と同じ素材・部品」を採用したいがために、リサーチ・検証・考察には数ヶ月・数年と費やしてきたという汗と涙の結晶なのです。

Terminator2 opening

汚し(ダメージ表現)は最小限に留め、「機械としてのオイル汚れ」や「ムービープロップの経年劣化・風合い」といった部分を念頭に置いた作品に仕上げました。この作品のような「汚し過ぎず・キレイ過ぎず」というスカルって、実はあちこち探してもなかなか無かったりします。

Terminator2 opening

展示場所によってはこのような俯瞰の景色がデフォルトとなるでしょう。睨みを効かせるためにグッと引いた顎。そのせいで、この角度からは眼球は見えません。コワいです。有機的なスカルのシルエットに金属の冷たい無機質な佇まい。これこそが、エンドスケルトンの魅力だと私は思います。

Terminator2 opening

肉眼ではそっくりに仕上がった「点発光」ですが、カメラのレンズを通すとどうしてもこのように差異が生じます。悔しいです。画像を加工して酷似させることもできますが、自己嫌悪になること受け合いなのでやりません。

ちなみに、日中の明るい部屋で点灯させてもしっかりと視認できるよう輝度を確保しています。このような撮影用ライティングを常にキープできる特殊環境ならば別ですが、基本的には室内の強い照明下での鑑賞を前提とする必要があります。

なお、この作品には電源スイッチがありません。台座背面中央のジャックにACアダプターを差し込めば直ちに発光します。LEDに負担にならない細工をしているので、電源プラグを差し込んだまま恒久的に発光させることが可能です。

最後に、今回の点発光地獄に苛まれていた僕を傍らで励まし続けてくれた榎本くん、本当にありがとう。いいモノができたね。これ新鮮だわよね。

 

 

T-STUDIOの信念に共感くださるあなたへ

既存製品のクオリティにがっかりしておられる本物志向のあなた、ぜひお手持ちのキットやプロップレプリカをT-STUDIOにお送り下さい。T-STUDIOが魂を込めて改修・製作します。

comment

  1. 土井大介 より:

    お疲れ様です。
    僕がメールでやりとりをさせていただくようになった当初にエンドスケルトンについて、
    医学的な部分と工業的な部分が融合したような独特の雰囲気が大好きで・・・といった趣旨の言葉をお伝えしたのを思い出しました。
    やっぱりそこですよね!

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